これが、製作した音響ユニットです。 音響推進機(Acoustic Thruster)と名付けました。 音響振動が大気に及ぼす影響は、実際は単純ではありません。 学校では、きれいな正弦波が伝わることを学びますが、それは微小振幅のときだけに許された近似なのです。スピーカーの振動は、接している空気を押したり引いたりするので、空気の膨脹・圧縮を引き起こし、その現象は少し遅れて近くの空気にも伝わり、その結果、空気の疎密波が伝わっていきます。これが音波です。
ニュートラルな大気圧に対し、「疎」の部分の減圧量と「密」の部分の増圧量は、微小振幅のときは同じとみなされます。このように「みなす」方法を線形近似といいます。しかし、大振幅になると様子が随分異なってきます。
大振幅の超音波が、固体や液体を空中に浮遊させるということは古くから知られていますが、その現象は線形近似の範囲でも起こるものです。しかし、大振幅の音波(つまり近似ができない非線形の条件)を生み出した場合に、空気や物体に対してどのような作用を持つのかはあまり知られていません。 そこで、上図のような装置を設計して作ってみました。 内部が空洞の容器の側面に4つの穴を開け、そこにスピーカーを取り付けました。スピーカーは、低周波特性が優れているもの高周波特性が優れているもの2種類を組み合わせました。スピーカーから出た音波は、容器の空洞に共鳴し、容器の手前の穴から音波が輻射されます。 動作テストをしてみたところ、思ったよりも面白い結果が得られました。
こちらは、パルス信号をインプットしてみたものです。「くの字」型に折って立てた紙に向けてパルス音を放射すると1メートル離れたところでも一瞬で倒れました。
また、ロウソクの炎を消すこともできました。大型のものであれば、音波で消火できる消化器が作れますね。空気の圧縮波の力を利用した例として、油田火災の現場では、ダイナマイトの爆破で消火されます。
こちらは、スピーカーを取り付けている容器の空洞に共鳴する周波数で音波を発生したときに見られる現象です。紙コップは音圧で転がりました。
同じ現象で、ゴム風船も浮かすことができました。手をかざしてみるとビーム状に風が吹いていました。
スピーカーは、振動しているだけなので、空気を押した後は、同じ量だけ引くことになるので、常識的に考えれば、空気は行ったり戻ったりして振動しているだけのように思うのですが、実際には一方向に空気が流れ続けたので、違和感があります。 もしかしたら、スピーカーに穴が空いて、そこから容器内に空気を吸い込んでいるのか?という疑いもあったので、全体をポリ袋で覆って、輻射の穴以外は密閉してみました。しかし、風は吹きました。
音響輻射によって起こる風の風圧を測ってみました。貴金属店で使われているものと同じ超高性能の電子天秤を用い、振動体でも正確に測れるように設定しました。 左の写真は、Thrusterを天秤に乗せて、輻射口を上に向けてスピーカーを鳴らしてみたところです。天秤の計測値は、増えました。上向きに風が起こるので、その「反作用」でThrusterが下向きに力を受けたためだと考えられます。 右の写真は、Thrusterを天秤から離し、輻射口を下に向けた場合の計測です。天秤が、輻射口からの「作用」を効率よく受け止められるよう、紙コップを置きました。このときの計測値は、同じ強さでスピーカーを鳴らしていたにもかかわらず「反作用」を25%も上回っていました。
作用と反作用が本当に違うのかを確認するために、作用と反作用の差を一度に計る方法を考案しました。紙コップを輻射口の方に向けた状態で、針金で紙コップをThrusterに固定しました。これを天秤に乗せて計測します。 紙コップが受けた作用力は上向きに働き、Thrusterは下向きに反作用を受けるので、それらの差が電子天秤に現れるはずです。スピーカーを鳴らしてみたところ、軽くなりました。つまり、作用のほうが反作用よりも大きかったことになります。 右側の写真は、輻射口を覆うようにして紙コップを追加したものです。この場合は、重量変化は0でした。つまり作用と反作用は同じでした。 ということは、輻射口から少し離れたところの空間で、なにか面白いことが起こっているにちがいありません。おそらく、音響ビームが周囲の空気を引きずって運動量を増すようなことが起きているのだろうと思います。