小説:ミトコンドリア劇場 その1.ミトコ


 ミトコは最近疲れを感じていた。
「年齢のせい・・・かしら?」
以前はどんなに疲れたって、一晩眠れば翌朝には、もうすっかり元気だった。
 週5日、駅前の大型スーパーの惣菜売り場で働いている。さかなをさばいたり、野菜の下ごしらえをしたり、フライや天ぷらをあげたりもする。お昼時は目がまわる忙しさだ。
人と会うことや料理することが好きで、昔からスーパーや弁当屋などで、厨房の中での仕込や接客の仕事をやってきた。
今は亡き父が故郷の海辺の町で地中海レストランのコックだった。
休日には、よく、父といっしょに料理した。
ミトコが料理好きになったのは、父を慕う気持ちからだと思う。今も、料理をしているときは父がそばにいるような気がするのだ。
自分で店をもつのが夢だった時もある。
「今は家族の専属料理人だけどね・・・」
それでも十分満足だ。家族の笑顔がミトコに元気をくれる。エネルギー源なのだ。
それが、いったいどうしたというのだろうか・・・。仕事は苦にならない。大変なこともあるけれど、何もしないよりはマシ。動き回っているのが性に合っている。
休みの日でも家にじっとしてるようなミトコではないのだ。
夫のカイトにはよく言われたものだ。
「君は、ミトコンドリアが元気なんだよ」
ミトコは、この春、42歳になった。
ミトコンドリアは、男女とも40代を超えると急速に減ってゆくらしい。

(続く)


 

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